「性行為をしていなければ、性病には感染しませんか?」診察中にこのような質問をされる患者さんがいらっしゃいますが、答えは【NO】です。
性行為以外の経路によっても性感染症になってしまうことはありえます。性行為という言葉は人それぞれ違う意味を持ちますので、かなりあいまいな言葉だからです。
「性行為はしていないから性感染症にはならないはずだ!」という思い込みによって感染症の診断や治療が遅れてしまったり、知らないうちに他人へうつしてしまうことがあります。
性行為以外での性病感染経路についてお話しします。
性病の主な感染経路
性感染症の感染経路として最も多いのは、陰茎を腟内に挿入することによって感染するという経路です。性行為というと多くの方がこの行為を想像されるかと思います。
それ以外の接触においても性病に感染することがありますので注意してください。
主な感染経路は以下の6つです。
性病の感染経路①陰茎ー腟
最もポピュラーな感染経路です。
コンドームを使用していたから絶対大丈夫というわけではありません。
コンドームでは覆っていない部分の接触によって感染してしまうことや、コンドーム装着前の接触によって感染することがあります。
性病の感染経路②口ー陰茎、腟
陰茎や腟からの分泌物に病原体が存在していると、その部位を舐めることで口唇(くちびる)や口の中に感染を起こしてしまいます。性病に感染すると、くちびるや口の中の粘膜にできものができたり腫れたりします。
咽頭(のどの奥)に感染を起こすこともあります。のどに性病が感染すると、のどが痛くなったり咳が出たりします。
口の中の炎症によって首のリンパ節が腫れることもあります。
性病の感染経路③口ー口(キス)
口唇(くちびる)や咽頭(のど)に病原体が多数存在している場合に、キスをすることで性感染症にかかってしまうことがあります。
オーラルセックスによって咽頭にクラミジアが感染している場合に、ディープキスをすることでクラミジア感染が広がってしまいます。
性病の感染経路④陰茎ー肛門
腸管内に病原体が存在していると、陰茎を挿入することで感染が広がります。逆に陰茎に病原体が存在している場合に直腸へ感染してしまうこともあります。
直腸炎を起こすと下痢や血便が出たり、排便時や性交時に肛門が痛くなったりします。
男性性器に感染すると、尿道炎や前立腺炎を起こします。
性病の感染経路⑤口ー肛門
肛門を舐めると、直腸や便中に存在している病原体が口の中へ入ってしまい感染を起こします。
代表的な病原体としては赤痢アメーバやA型肝炎があります。これらの病原体は、衛生状態が悪い国において食べ物から感染することが多いと言われていましたが、近年はリミングによって日本での感染が増えています。
他には腸管出血性大腸菌O157、キャンピロバクター、サルモネラなど食中毒を起こす病原体に感染することが多いです。
性病の感染経路⑥母子感染
性感染症の中には、母親から赤ちゃんへ感染してしまう病原体があります。
近年感染者が増加している梅毒は、胎盤を介して母親から胎児に感染します。胎児が梅毒に感染すると、流産や死産の可能性が高まります。無事に出生できた場合においても、知能低下、難聴、視力低下、骨や歯の異常など全身に症状が出ます。
赤ちゃんが産まれるときの通り道である、産道を介して感染することもあります。クラミジアにかかっている妊婦さんが経腟分娩をすると、赤ちゃんが肺炎になったり結膜炎になったりします。
このような感染症は妊婦健診で感染しているかどうかを調べ、感染していることが判明したら出産までに治療を行います。
妊娠してからでは治療が遅れてしまう可能性があります。できれば妊活前に検査を行い、治療を受けて健康な状態で妊娠を目指すのがベストです。
日常生活において原因となりうる感染経路
性感染症には上記で述べた経路で感染することが大多数ですが、まれに日常生活において感染してしまうこともあります。
トリコモナスは水場において長時間生きられるという性質をもっています。このため銭湯・温泉・サウナやプールに生息しています。浴槽、お風呂の椅子や床などに座った時に稀に感染してしまうことがあります。
公衆トイレの便座を介して感染することもあります。感染している人と同じタオルやガウンを使用した時にも感染することがあるとも言われています。
銭湯や温泉、プールでは床には直接座らないようにしましょう。お風呂の椅子は使用前に水でしっかり流すようにしてください。入浴後にシャワーで性器を洗うのも効果的だと考えます。
公衆トイレでは便座を除菌クリーナーで拭いてから使用するのが望ましいです。他人とタオルや洋服は他人とは共用せず、きれいに洗濯されているものを使いましょう。
感染経路としては考えにくい原因
性病は空気感染、飛沫感染することはありません。感染している人と同じ電車に乗っても感染することはありません。
お話しをしたり食事をしただけでは感染することはありません。一緒にスポーツをしても感染することはありません。自分や周りの人が性病と診断された場合においても過度に気にする必要はありません。
いつも通りの日常生活を送りましょう。
性病の感染経路のまとめ
性病にはノーマルセックスだけではなく、オーラルセックスやキスでも感染してしまうリスクがあります。このような行為を行った後に、何らかの症状が出てきた場合には放置せず早めにクリニックや病院を受診するようにしてください。
性行為のことはなかなか他人へは話したくないかもしれません。具体的にどのような行為を行ったのかを伝えて頂くことで、適切な検査を行うことができます。そして適切な治療につなげることができるので早く病気を治すことができます。
当院では性病を専門としているスタッフが丁寧に対応し、お話ししやすい環境作りに配慮しています。
性病に関して気になることがあれば、気軽にお越しください。