梅毒

梅毒とは

梅毒トレポネーマというらせん状の形をした細菌により引き起こされる感染症です。

主に性的接触によって、口や性器などの粘膜や皮膚から感染します。
オーラルセックス(口腔性交)やアナルセックス(肛門性交)などでも感染を起こします。
初期には潰瘍や皮疹を起こしながら慢性に経過し、長期間では、脳や心臓に重大な合併症を起こすことがあります。

また、妊娠している人が梅毒にかかると、流産、死産となったり、子どもが梅毒にかかった状態で生まれる先天性梅毒となることがあります。

梅毒は早期の適切な抗菌薬治療で完治が可能です。

梅毒の感染者数

戦国時代より国内でも流行していたとされており、江戸時代にも遊郭と呼ばれる売春宿ではそこで働く女性から、患者が急増していったとされています。

昭和の時代にはペニシリンという抗菌薬が作られたことで、患者数は減少し、2000年代には年間800人未満の患者数でしたが、2011年頃から患者数が増え始め、2018年には7,000例近くまで報告数が増加しました。
2022年には症例報告数は13,528例であり、感染症法が施行された1999年以来初めて10,000例を上回りました。

国立感染症研究所, 日本の梅毒症例の動向について

梅毒の感染経路

梅毒は通常、性的接触により感染します。
膣だけではなく口や肛門の粘膜からも、菌は体内に侵入します。感染しやすさは、梅毒にかかってからの期間にも影響されますが、感染力の強い早期梅毒の相手と性交を1回行うことで感染する確率は約3分の1とされています。

細菌は体内に侵入した後、付近のリンパ節に達し、血液によって全身に運ばれ、体の各部位ごとに症状を起こします。
また、梅毒に感染している女性が妊娠することで胎盤経由で胎児が感染する、先天性梅毒も起こります。梅毒トレポネーマはヒトの体外では長く生き延びることができないため、梅毒の人が触れた物体(ドアやコップなど)に触れただけで梅毒へ感染することはありません。

梅毒に感染する行為

梅毒は主に性行為で感染するため、肛門性交・腟性交・オーラルセックスによって感染するリスクが高まります。
また母子感染も容易に起こるため、妊娠初期の梅毒検査は必須となっています。

梅毒の症状

梅毒の症状は、見かけ上は健康な時期をはさんで、3段階で生じます。

Ⅰ期顕症梅毒

感染してから3~4週間で、陰茎、外陰部、腟などに、痛みのないしこり(初期硬結といいます)ができ、その中心に下疳と呼ばれる潰瘍(皮膚のえぐれ)ができます。
下疳(性行為によりできる伝染性潰瘍)が肛門、のど、指などにできることもあります。
感染部位付近のリンパ節が腫れることもありますが、これらの症状は痛みを伴わないことが多いです。

また治療を行わなくても症状は自然に軽快へ向かうため、ひそかに病気が進行するケースがあります。

感染から1年未満の活動性梅毒は、性的接触での感染力が高いとされ他者への感染リスクが高まります。

Ⅱ期顕症梅毒

Ⅰ期梅毒の症状は2~5週で消失しますが、病気が治ったわけではありません。
感染後無治療のまま、4~10週ほど経過すると、Ⅱ期では手のひらも含めた全身の発疹が出現し、口の中などの粘膜にも発疹が出ます。

発熱、疲労感、頭痛、食欲減退などの全身症状が見られるのも特徴です。
髪の毛が抜けたり、腎臓や肝臓の炎症を起こすこともあります。

潜伏梅毒

Ⅱ期の後、しばらく症状のない時期が数年から数十年続きます。
Ⅰ期とⅡ期の間の無症状の期間、およびⅡ期の後の症状のない期間を潜伏梅毒と呼びます。

症状はなくとも、体内に菌は存在しており、梅毒の検査を行えば陽性と判定されます。

生涯、潜伏状態にとどまる人もいれば、25%程度の患者さんは、Ⅱ期の症状が繰り返し現れます。
また感染からの期間が1年未満を早期梅毒、1年以上経過したものを後期梅毒と区別します。

Ⅲ期顕症梅毒

感染から3年も経過するとⅢ期梅毒と呼ばれる時期となり、脳・脊髄に感染が起こると認知症や麻痺、視力低下などを生じ、心臓や大動脈に感染が起こると狭心症や大動脈瘤などの命に関わる病気を起こします。

先天性梅毒

活動性梅毒の妊婦から胎内感染が推定される症例で、上記分類のいずれかを満たすものとなります。
無症状の場合は、潜伏梅毒にも分類されます。

梅毒の検査方法

採血検査によって、血液の中の抗体という物質を測定することで診断が可能です。

抗体には梅毒トレポネーマそのものに反応するもの(TP抗体)や、カルジオリピンという脂質に対して反応するもの(RPR法)があります。
RPR法は梅毒への治療によって抗体の値が低下してくるため、治療の効果を確認できますが、妊娠や自己免疫疾患など様々なことで上昇することがあり、これを生物学的偽陽性と呼びます。

検査可能な時期

感染後4~6週程度でRPR法が陽性になるとされます。
感染から検査までの期間が短い場合は、感染があっても検査では陰性になる可能性が高いため、2~3週間後に再度検査をすることが推奨されています。

梅毒の治療方法

梅毒の治療は、感染してからの期間によって治療方法が異なります。

ペニシリン系という種類の抗菌薬を注射したり、一定期間内服することで治療が可能です。

お薬のアレルギーがある方にはドキシサイクリンという別の種類の抗菌薬を内服していただき治療します。
抗菌薬投与後、6~12時間でJarisch-Herxheimer反応といって、急な皮膚の赤みや発熱が出ることがありますが、菌が死滅したことによる反応とされており翌日には治りますので、心配はありません。

梅毒の予防方法

コンドームを常に正しく使用することが基本で、最も重要となります。
またオーラルセックス(口腔性交)やアナルセックス(肛門性交)も気をつける必要があるため、無防備な状態で性交を行わず、コンドームやデンタルダム(口腔性交用のラテックス製シート)の使用を推奨し、感染リスクを低減させます。

また、不特定多数の相手との性的接触は感したりするなど、安全でない性行為は避けるべきです。

コンドームを使用しても感染を100%防ぐことはできません。
リスクのある性行為をした場合、新しい性的パートナーができた場合、またはパートナーに性感染症の症状が見られる場合は、梅毒の検査を受けることが推奨されます。
定期的な性感染症の検査は、自己の性的健康を守るとともに、パートナーを感染症から守る責任ある行動です。