HIV・エイズは、性的な接触によって感染・発症するといわれる代表的な性感染症のひとつです。一度感染すれば体内で増殖し、ヒトの免疫細胞を徐々に破壊してしまうため、時に命にかかわるような状況を招くこともあります。

しかし、近年では早期発見・治療ができれば、命にかかわるような状況を回避することが可能といわれています。

今回は、HIV・エイズの特徴や症状の経過、検査・治療方法などを詳しく解説します。

HIV・エイズとは

HIVとはHuman Immunodeficiency Virusの略で、「ヒト免疫不全ウイルス」のことを指します。

HIVはヒトの免疫細胞で増殖し、様々な病原体から身体を防御する機能を破壊してしまうウイルスです。

一方、エイズ(AIDS)とはAcquired Immune Deficiency Syndromeの略で、HIVに感染することによって何らかの病気を発症した状態のことを指します。

つまり、HIVを身体の中に持っているだけではエイズとは言わないということです。

HIV感染により免疫力が著しく低下し、合併症状が出てはじめて「エイズ」という診断になります。

例えHIVに感染していても症状が出ていないのであれば、「エイズは発症していない」ということです。

なお、HIVに感染してからエイズを発症するまでの期間には個人差があり、数年〜10年程度かかることもあります。

HIV・エイズの感染経路

HIVは男性の精液や女性の膣分泌液、血液や母乳などを介して感染します。ここでは、HIV・エイズの3つの感染経路について解説します。

HIV・エイズの感染経路①性行為による感染

HIVの感染経路として最も多いのは「性行為」です。その割合は約8割にも上るといわれています。

男性の精液や女性の膣分泌液が粘膜から体内へ侵入することが感染の原因です。

また、異性間での性行為よりも男性同士での性行為による感染の方が多いのも特徴のひとつです。

これはアナルセックスにより腸の粘膜が傷つくことが感染リスクの高さに関連しているといわれています。

なお、HIVは粘膜や傷などから侵入するため、膣性交やアナルセックス以外にもオーラルセックスや性的な接触により感染します。

例えば、口腔内にできた傷口からHIVを含む精液や膣分泌液によって感染が引き起こされることもあります。

HIV・エイズの感染経路②血液による感染

HIVを含む血液による輸血・注射器による覚せい剤の回し打ち・医療現場での針刺し事故などによって感染することもあります。

なお、日本の輸血では非常に高い水準のHIV検査が行われているため、献血による感染リスクは極めて低いです。

この検査結果については献血者に伝えられることはありません。

HIV・エイズの感染の有無を調べたい場合には、必ず専門機関で血液検査を受けるようにしましょう。

HIV・エイズの感染経路③母子感染

母親がHIVに感染している場合、妊娠~出産を通して赤ちゃんへ感染してしまうことが考えられます。

また、出産後に母乳を介して赤ちゃんにHIVが感染することもあります。

妊娠中に感染が分かった場合、できるだけ速やかに内服治療を開始することが望ましいです。

経腟分娩ではなく帝王切開で出産し、母乳ではなく粉ミルクで育てることにより、感染リスクを大幅に減らすことが可能です。

妊娠が分かったタイミングでHIV・エイズへの感染が疑われる場合には、医療機関へ相談するようにしてください。

HIV・エイズの症状

HIVに感染してからエイズを発症するまでの経過は3つの時期に分類されます。ここでは時期ごとにどのような症状が現れるのか詳しく確認していきましょう。

HIV・エイズの症状①感染初期(急性期)

感染して間もない時期については、はっきりと自覚できるような症状が出ないことがほとんどです。その後、2〜4週間を経て、体内でHIVが急激に増殖していきます。

それによりCD4陽性リンパ球という身体を守る細胞にも感染が起こり、細胞が破壊されることで免疫力が低下します。

この頃になると風邪やインフルエンザによく似た下記のような症状もみられることがあります。

・発熱
・のどの痛み
・リンパ節の腫脹
・倦怠感
・下痢
・頭痛
・筋肉痛
・皮疹

HIV・エイズの症状②無症状期

急性期を過ぎて一旦症状が落ち着くと、何事もなかったかのように無症状の時期が長く続きます。

このような無症状期は数年〜10年程の長期にわたって続くのがHIV・エイズの特徴です。

この期間の長さは個人差が大きく、短い方では2年程でエイズを発症することもあれば、長い方では15年以上無症状で過ごすこともあります。

この時期は全く症状が出ないまま経過していきますので、知らず知らずのうちにHIVが体内で増殖を続け、免疫細胞を破壊していくことになります。

HIV・エイズの症状③エイズ期

無症状のまま免疫細胞の破壊が続いたのち、免疫力が極端に低下すると様々な病気を発症します。つまり、「エイズ」の発症です。

エイズ期では、健康な方であれば防げるような感染力の弱い菌による日和見感染を起こすようになります。

例えば、真菌によるカンジダ症やニューモシスチス肺炎などが挙げられます。
その他にも、エイズ期に発症するといわれている疾患は、細菌・ウイルスによる感染症や悪性腫瘍など多岐にわたります。

HIV・エイズの検査および診断

HIV・エイズの検査および診断を受けようと思っても、どこで受けられるのか分からないという方も少なくないでしょう。

ここでは、HIV・エイズの検査および診断が受けられる機関を3つご紹介します。

なお、HIVに感染してから1〜3ヵ月はウインドウ期と呼ばれ、HIVに感染していても検査が陰性になってしまいますので注意しましょう。

HIV・エイズの検査および診断を受けられる機関①保健所

HIVに感染しているかどうかを調べるためにはHIV検査を受ける必要があります。全国にある保健所で無料の匿名検査を受けることが可能です。

ただし、保健所でのHIV検査は事前予約が必要です。予約できる日時が限られていることもあるので事前に確認するようにしましょう。

保健所の検査で陽性となった場合、地域のHIV・エイズ治療拠点病院にて詳しい診断・治療を行うことになります。

HIV・エイズの検査および診断を受けられる機関②医療機関

有料ではあるものの医療機関でもHIV検査を受けることもできます。医療機関の場合は記名が必要ですが、保健所に比べて検査の日程を選択しやすいというメリットがあります。

ただし、全ての医療機関でHIV検査が受けられるとは限りません。事前にホームページや電話にて、HIV検査や治療に対応しているかを確認するようにしましょう。

HIV・エイズの検査や治療を専門的に行っている医療機関であれば、検査・診断から治療までスムーズに行うことが可能です。

HIV・エイズの検査および診断を受けられる機関③匿名郵送検査

保健所や医療機関へ受診することが難しい方は、匿名の郵送検査という方法もあります。郵送検査は指定した場所に検査キットが届き、自宅で検査して返送するという簡単な手順で利用できます。

検査の内容としては、下記のような2つのステップです。

①専用の器具を使用し、指先に微細な傷をつける
②指先からわずかな血液を採取し、ろ紙に染み込ませる

このように採取した検体を返送し、後日インターネット上で検査結果を確認できます。

忙しくてなかなか受診する時間が確保できない方でも利用しやすいため、ぜひ活用してみてはいかがでしょうか。

なお、検査で陽性反応がみられた場合には、速やかに専門機関へ受診することが重要です。

HIV・エイズの治療

残念ながら一度体内に入ったHIVを死滅させるような治療はありません。

しかし、エイズを発症する前に抗HIV薬の内服を開始し、ウイルスの増殖を抑えることができれば無症状のまま生涯を過ごすことも可能です。そのためには、可能な限り早期発見・早期治療を開始することが重要です。

抗ウイルス薬は1日あたり1回1錠で処方されることが一般的ですので、治療自体は比較的継続しやすいといえるでしょう。しかし、途中で内服をやめてしまうと体内のHIVに耐性がつき、十分な効果を得られなくなってしまうため注意が必要です。

一度治療を開始したら、医師の指示のもと、正しい内服を継続するようにしましょう。また、エイズを発症した場合の治療については、発症した疾患の種類によって治療方法が異なります。

発症前に比べて身体の免疫力も著しく低下しており、治療の効果が現れにくいケースもあるのが現状です。そのため、可能な限り早めに治療を開始することが望ましいといえます。

HIV・エイズのリスクや予防法

HIVに感染した場合、免疫力の低下や母子感染などのリスクが高くなります。知らず知らずのうちにパートナーに感染させてしまうことも考えられるでしょう。

また、HIV感染からエイズを発症した場合、放置すれば死に至るような様々な病気を合併するリスクがあるため注意が必要です。

ここでは、HIV・エイズを予防するための方法について解説します。

HIV・エイズの予防法①不特定多数の方との性的接触は避ける

不特定多数の方との性的接触はHIVを含め、性感染症への感染リスクを高めます。

また、不特定多数の方と性的な接触を行っている場合には感染経路が不明瞭になってしまうという点にも注意が必要です。

このような状況では、早期に治療を開始しても十分な効果が得られなくなってしまうことも考えられます。

HIV・エイズの予防法②コンドームを正しく使用する

HIVは粘膜や傷口から体内へと侵入していきますので、性行為の際にはコンドームを正しく使用するようにしましょう。

膣交渉だけでなく、性器同士の接触・オーラルセックス・アナルセックスなども同様にコンドームを使用することが感染予防に効果的です。

HIV・エイズの予防法③HIV検査を受ける

例えHIVに感染しても早期に発見し治療を開始できれば、エイズの発症を防ぐことは可能です。不安に思うことがあれば、できるだけ早めにHIV検査を受けておくと安心です。

HIV・エイズについてのまとめ

HIV・エイズときくと、とても恐ろしいイメージを抱いてしまう方も多いかもしれません。

しかし、例えHIVに感染してもエイズを発症する前にHIVの増殖を抑えることさえできれば、エイズを発症せずに生涯を過ごすことも可能です。

エイズを発症しないためには、早期に検査を受けて治療を開始することが何よりも重要です。匿名での検査や郵送検査などもありますので、是非検査を受けるようにしてみてください。