トリコモナスとは性行為によって「トリコモナス原虫」という寄生虫によって陰部に炎症が引き起こされる性感染症のひとつです。

クラミジア・淋病・梅毒と同様に、世界的に感染者の多い性感染症ですが、日本では減少傾向にあります。

このように世界の国々と比較して日本ではトリコモナスの感染者が比較的少ないものの、無症状で感染していることが非常に多いのが特徴です。

無症状であることが多いトリコモナスですが、今回は感染経路別にどのような症状が現れるのか詳しく解説していきます。

トリコモナスは性行為の種類によって変わる症状

トリコモナス感染症は肉眼では確認できないほど小さな「トリコモナス原虫」が、男性の場合には尿道・陰嚢・前立腺へ感染することによって発症します。

一方、女性の場合には、尿道・膀胱・子宮経管・膣へと感染し、次第に増殖します。

そのため、性行為の種類つまり、直接接触した部位によって症状が現れる部位が変わります。

まずは、性行為の種類別に症状を確認していきましょう。

膣性交による感染

トリコモナス原虫は、生息場所として膣や尿道を好みます。そのため、膣性交による感染が最も多いのが特徴です。

トリコモナスに感染した膣や尿道が直接接触したり精液や膣分泌液を介したりすることにより感染します。

女性から男性へ感染する場合、女性の膣内や膣分泌液から男性の尿道へとトリコモナス原虫が侵入していきます。

この場合、性行為後すぐに排尿することでトリコモナス原虫が尿で排出されることもあるでしょう。

しかし、トリコモナス原虫が尿で排泄されなかった場合には陰嚢や前立腺へ棲みついて増殖し、炎症による症状がみられることもあります。

一方、男性から女性へと感染する場合、トリコモナスに感染した男性の精液や尿と女性の尿道や膣が接触することによりトリコモナスに感染します。

その後、膀胱や子宮経管へ感染が広がることも考えられるでしょう。

なお、トリコモナス原虫は精液や膣分泌液を介して感染するため、挿入せずとも感染するリスクはあります。

オーラルセックスによる感染

オーラルセックスもトリコモナスの感染経路のひとつです。

フェラチオにより、トリコモナスに感染した男性の陰嚢や前立腺から精液を介して相手の口腔内へ感染することがあります。

同様に、クン二リングスによってトリコモナスに感染した膣からの分泌液を介し、相手の口腔内へ感染することもあるでしょう。

それらとは逆に、オーラルセックスでは口腔内感染をしている方の口腔内から陰部への感染も十分に考えられます。

オーラルセックスによる感染は膣性交による感染に比べて少ないといわれているものの、無症状のままトリコモナス原虫が口腔内で存在していることがあるため注意が必要です。

口腔内感染では顕著な症状がみられることは少ないですが、トリコモナス原虫により歯周病が引き起こされ、歯肉の炎症や口臭などが現れることもあります。

アナルセックスによる感染

アナルセックスの場合でも、トリコモナスに感染した性器と直接的に接触があれば感染するリスクはあります。

ただし、腸にトリコモナスが寄生しても膣や尿道のように顕著に症状が現れることはありません。

一方、アナルセックスにより腸から尿道へトリコモナスが感染した場合には、尿道や膀胱などに症状が現れることはあります。

主なトリコモナスの症状

トリコモナスの潜伏期間は1〜3週間ほどですが、発症しても男女ともに無症状で感染に気付かないことが多い病気です。

では、どのような症状が現れた場合トリコモナスを疑う必要があるのでしょうか。

ここでは、男女別に主な症状について解説します。

【男性】トリコモナスの症状①尿道炎

男性の場合、トリコモナス原虫は尿道に寄生するため「尿道炎」の症状が現れます。具体的には、排尿時の痛み・尿道のかゆみ・陰部の違和感などです。

また、尿道から微量な分泌物(うみ)が排出されることもあります。

しかし、このような症状を感じないこともあり、感染に気づかないまま放置してしまうケースが多いです。

【男性】トリコモナスの症状②前立腺炎

尿道への感染がさらに進んだ場合、前立腺炎を引き起こすこともあります。

この場合には、排尿しにくくなる(排尿困難)や排尿の回数が増える(頻尿)などの症状がみられるようになります。

また、このような症状が一度現れたものの数日経って軽快することもあります。この場合、決して自然治癒をしたわけではありません。

慢性的な炎症状態が続いている可能性もあるため、放置せずに検査を受けるようにしましょう。

【女性】トリコモナスの症状①尿道炎・膀胱炎

男性と同様に、尿道からトリコモナスに感染した場合には尿道炎が引き起こされます。

しかし、女性の場合は男性に比べて尿道が短いため膀胱へ感染が進み、膀胱炎を引き起こすリスクも高くなります。

膀胱炎の特徴的な症状は、排尿時の痛み・頻尿・残尿感・白濁尿・下腹部の違和感などです。

また、女性は尿道と膣の位置が非常に近いため、尿道と膣の両方に感染が広がることがあります。

【女性】トリコモナスの症状②膣炎

膣炎もまた、トリコモナスが引き起こす女性特有の症状のひとつです。トリコモナス膣炎では、悪臭を伴う泡状のおりものが大量に出るのが特徴です。

この悪臭は「魚の腐ったにおい」と表現されることもあるほど非常に強い臭いで、色は褐色や黄緑色です。

その他、外陰部や膣内の激しいかゆみやヒリヒリとした強い痛み・ただれを感じることもあります。また、性交時に痛みを感じることもあります。

トリコモナスの感染経路

先にも述べましたが、トリコモナスの感染経路は「性行為」です。膣性交に加え、オーラルセックスやアナルセックスでも感染します。

トリコモナスが口腔内に存在していれば、キスによって感染することも考えられるでしょう。

また、トリコモナス原虫は水場で長時間生きられる寄生虫であることから性行為以外で感染することがあります。

例えば、不特定多数の方が利用する浴槽・プール・便座などからの感染です。その他、タオルや下着の共用による感染なども報告されています。

そのため、性行為を経験したことがない女性や幼児などが発症することもある病気です。

さらに、稀なケースではありますが、トリコモナスに感染した母親から新生児に感染する垂直感染も報告されています。

トリコモナスの症状を放置してしまうことのリスク

トリコモナスは、放置しても自然に治癒することはありません。治癒するどころか増殖を続けて悪化することがあるため注意が必要です。

排尿時の不快感や陰部の痛みやかゆみといった症状が強くなった場合、日常生活に支障が出ることもあるでしょう。

女性の場合、膣炎から卵管炎が引き起こされることにより不妊症・早産・流産などのリスクが上がります。

思い当たる症状があるようであれば、早めに治療を受けることをおすすめします。

また、トリコモナスを放置している場合、パートナーとお互いにうつし合ってしまうピンポン感染が起きることが多いです。

可能な限りパートナーと共に検査を受けるようにしましょう。

なお、トリコモナスは他の臓器から再発することも多い病気です。感染したすべての部位の治療が完全に行われる必要があります。

トリコモナスの症状のまとめ

トリコモナスは無症状であることも多く、気づかずに病気を悪化させてしまっているケースもあります。

また、排尿時の痛みや陰部の強いかゆみなどが現れ、日常生活に支障が出てしまうこともあるでしょう。

トリコモナス原虫は目には見えない小さな寄生虫ですが、放置していても自然に消滅することはありません。

潜伏期間を過ぎていれば症状がなくても検査を受けることが可能です。身体の違和感や不安に思うことがあれば、できるだけ早めに検査を受けるようにしましょう。